2021年01月15日

お花と映画.15 「ペイン・アンド・グローリー」('19)

お花と映画.15 「ペイン・アンド・グローリー」('19)
お花と映画.15 「ペイン・アンド・グローリー」(19)
「お花と映画」を集めてみようと思ったとき初めに胸に浮かんだのは
ペドロ・アルモドバル監督の作品の数々でした。
監督の映画に描かれるあらゆる年代やセクシャリティの人たちが、
激しく、そして少しの諦めと共に生きている様子は、
花びんにいけられた鮮やかで個性豊かなお花の姿そのもの。

「フィクションと現実は表裏一体」と言う監督が自らの人生を映画に投影し、
過去の痛みも栄光も等しくセレブレイトすることで前に進めると
教えてくれたこの作品は感動的で、これまでにないほど親密さを感じました。

体中の痛みのせいで創作意欲が削がれ、引退同然で暮らす映画監督が、
32年前に撮った作品の再上映を機に、喧嘩別れした主演俳優や昔の恋人との再会、
亡くなった母と子ども時代の回想を経て、新しい映画を撮る再生の物語。

貧しい子ども時代、洞窟を利用した家に住んでいた主人公。
働き者の母親がきれいに整えた天然のパティオで強烈な「目覚め」を体験するのですが、
その場面で彼の傍らにあったのがオイル缶に植えられた真っ赤なゼラニウムでした。
.
真っ白な漆喰壁と、上から降り注ぐ陽光、椅子に腰掛け汗ばんで読書する少年、
そして彼のシャツとゼラニウムの赤色。
一枚の絵画となって現在の彼の目前に現れたあの息を呑む美しい瞬間が、
年を重ねた映画監督を過去に向き合わせ、創作への情熱を再燃させたのです。

アルモドバル作品では「バッド・エデュケーション」のプールサイドや
「トーク・トゥ・ハー」の窓辺のゼラニウムも印象的でした。
またどの作品のセットでも、ユニークな花びんに
一種類の花をごそっと入れる切り花の飾り方がとってもすてきで、目を奪われます。

映画で見るヨーロッパの街は、
バルコニーにこぼれんばかりに咲いたゼラニウムが本当にきれいで憧れます!
湿度が低いおかげであんな風に咲いてくれるんでしょうね。
私みたいなゼラニウム好きにはこれからが楽しみな季節です。


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